ベストブックス2023

f:id:toshikida:20240102202516j:image

 

  • 『僕らが作ったギターの名器』椎野秀聰
  • 『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』 若林恵、畑中章宏
  • 『すべての月、すべての年』ルシア・ベルリン

 

 今年もなんとか本を100冊以上買った。ほとんどの本は便利なAmazonで買ったのだけど、それでも実店舗で偶然手に取る楽しみを忘れたくはないから、いくつか実店舗にも立ち寄った。

 2023年のお盆休みは長野県上田のブックカフェnaboにいた。階段を上がって右側の海外小説の棚に、ルシア・ベルリンの『すべての月、すべての年』があった。レジへ持っていくと、「ルシア・ベルリン読まれるんですか」と店主に声をかけられた。前作『掃除婦のための手引書』の読後感にやられたと伝える。わかります、と頷き、「それならこれも好きだとおもいます」と、トム・ジョーンズやテッド・チャンを勧められた。『すべての月、すべての年』を部屋で手に取るとき、上田の思い出も一緒にやってくる。

 東京に引っ越してから、これからどういうふうに暮らしていこうかしばらく考えていた。だいたいいつも、概念工事からはじめる。大雑把に言って、転職したのは、何かを変えたいとおもったからだった。10月のとある日、通勤の車で黒鳥社の若林恵さんがイーロン・マスクの評伝について話す対談を聞いていた。仕事をするってのがどういうことなのかは、椎野秀聰さんの本を読んだらわかるよと言った。気になって、『僕らが作ったギターの名器』を買った。いま働いている職場での仕事の仕方、ではない仕方を、椎野さんの著書を読んで知る。仕事をするというもの、もっとたくさん知らないといけないと強く思ったのだった。

 『忘れられた日本人をひらく』では、宮本常一の『忘れられた日本人』をもとに、過去の記録を読み返すことによって、現代の問題の解決への新しい見方を発見しようと試みている。「寄合」の章では、いかにしてコンセンサスを導くかが語られている。どのようなプロセスを経たとしても、採決されたあとに生活は続いていく。であればこそ、どのようなプロセスを通ったかが生活には、大事なのだという点に目をつけている。

 『忘れられた日本人をひらく』はこう締めくくられている。「ランダムに会話を続けながら、さながら村の寄合のように、寄り道しながら蛇行していくようなかたちになりました。(中略)でもそれがいかに重要なものであるか、というのは、やはり宮本常一の大事な教えなんだと思います」。合意形成を求めないどうでもいい会話、記録を残す行為、個人的な思い出。そういったもの、なお一層、大事にしたい。