ベストアルバム2023

Best Album 2023
  • Caroline Polachek『Desire, I Want To Turn Into You』
  • Howie Lee『Walking on Thin Ice』
  • Anja Laudval『Farewell to Faraway Friends』

時代や価値観は変化することを、ハッキリ認めなくてはいけない。もうアルバムをランキングにするのはやめたほうがいいのかもしれない。かつて、みんなが同じ音楽を聞くなんて奇跡みたいな時代があったなんて信じられるだろうか。もし、アルバムランキングをやるとしても、「自分の」ランキングでないと、どうもうまく立ち行かない気がする。もうジャンルで音楽を分ける時代は終わりを迎えているのかもしれない。アーティストもリスナーもジャンルを気にしていない。はたしてジャンルとはなんのことだったのだろうか。

今年よく聴いたアルバムのアーティストの生まれ育ちを並べてみる。Caroline Polachekはアメリカの歌手、プロデューサー、ソングライター。Howie Leeは、北京を拠点とするエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー。Anja Laudval、ノルウェーのジャズ・ミュージシャンで作曲家。

洋楽といえば、英国やアメリカのバンドを想起するのは、先に話した遠い昔の奇跡の話。この数年、ストリーミングのせいもあって、様々な地域や民族のノリを現代のツールで作られた音楽をよく聞いている。社会に先行して表象が現れるのが音楽というのなら、国という概念が溶けていく一方で、出自の記憶は濃くなっていくのではないか、と聴いている音楽の有り様から想像する。であればこそ、変幻自在に音楽を聞くスタイルのなかに、変幻自在に生きていく方法が隠されていて、それは、これからの時代に即した方法なのではないだろうか。

なんて、大風呂敷を広げて、考えているつもりになってもしょうがないから、一言、Howie Leeについて。代官山UNITのステージでタンクトップのHowie Leeは音に合わせて、身体を動かす。その音と動きがアジア的に感じた。竹のようにしなやかだった。エレクトロニカ太極拳。圧巻だった。