2024/01/22

夜の浅草橋まで行くと同僚に話すと、いつもより気持ち早い目に仕事を終われせてくれた。慌てて車に乗り込んで、近くの公衆トイレで顔と手を洗い、家をスルーして駅へ向かう。着替えは持ってきている。18時発の中央線に飛び乗って東に向かう。反対行きの電車はパンパン。19時30分にアンドシノワーズに着く。店の前でセキグチさんに会う。1年以上ぶりだけど昨日会ったかのよう。ビルの階段を上がって店に入ると、すでにタカノさんが予約席に座っていた。さすがである。ジャケットを脱ぎハンガーにかけ席に座ると、セキグチさんにsade聞くの?と声をかけられる。これを待っていた。セキグチさんありがとう。そのあと、コンドウさん、ヒラノ師匠がやってきてディナースタート。ヒラノ師匠も速攻、sadeじゃないですか。最高です。バンドシャツの効用。そして料理は、スパイスの効かせ方が今まで食べてきたものと圧倒的に違う。こりゃまいった。その場でAmazonでポチる。積もる話も面白すぎてやばい。井戸を掘るときには方角が大事。平成元年世代はこうでありたい自分を演じる価値観。無駄話の重要性。etc。数ヶ月に一度こうして気の合う仲間と美味しい食事をしながら話す時間は本当に最高。情報の連鎖。まさにアタラクシア。最終の中央線で、井上陽水のPi Po Paを聴きながら帰る。

ベストアルバム2023

Best Album 2023
  • Caroline Polachek『Desire, I Want To Turn Into You』
  • Howie Lee『Walking on Thin Ice』
  • Anja Laudval『Farewell to Faraway Friends』

時代や価値観は変化することを、ハッキリ認めなくてはいけない。もうアルバムをランキングにするのはやめたほうがいいのかもしれない。かつて、みんなが同じ音楽を聞くなんて奇跡みたいな時代があったなんて信じられるだろうか。もし、アルバムランキングをやるとしても、「自分の」ランキングでないと、どうもうまく立ち行かない気がする。もうジャンルで音楽を分ける時代は終わりを迎えているのかもしれない。アーティストもリスナーもジャンルを気にしていない。はたしてジャンルとはなんのことだったのだろうか。

今年よく聴いたアルバムのアーティストの生まれ育ちを並べてみる。Caroline Polachekはアメリカの歌手、プロデューサー、ソングライター。Howie Leeは、北京を拠点とするエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー。Anja Laudval、ノルウェーのジャズ・ミュージシャンで作曲家。

洋楽といえば、英国やアメリカのバンドを想起するのは、先に話した遠い昔の奇跡の話。この数年、ストリーミングのせいもあって、様々な地域や民族のノリを現代のツールで作られた音楽をよく聞いている。社会に先行して表象が現れるのが音楽というのなら、国という概念が溶けていく一方で、出自の記憶は濃くなっていくのではないか、と聴いている音楽の有り様から想像する。であればこそ、変幻自在に音楽を聞くスタイルのなかに、変幻自在に生きていく方法が隠されていて、それは、これからの時代に即した方法なのではないだろうか。

なんて、大風呂敷を広げて、考えているつもりになってもしょうがないから、一言、Howie Leeについて。代官山UNITのステージでタンクトップのHowie Leeは音に合わせて、身体を動かす。その音と動きがアジア的に感じた。竹のようにしなやかだった。エレクトロニカ太極拳。圧巻だった。

 

 

ベストブックス2023

f:id:toshikida:20240102202516j:image

 

  • 『僕らが作ったギターの名器』椎野秀聰
  • 『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』 若林恵、畑中章宏
  • 『すべての月、すべての年』ルシア・ベルリン

 

 今年もなんとか本を100冊以上買った。ほとんどの本は便利なAmazonで買ったのだけど、それでも実店舗で偶然手に取る楽しみを忘れたくはないから、いくつか実店舗にも立ち寄った。

 2023年のお盆休みは長野県上田のブックカフェnaboにいた。階段を上がって右側の海外小説の棚に、ルシア・ベルリンの『すべての月、すべての年』があった。レジへ持っていくと、「ルシア・ベルリン読まれるんですか」と店主に声をかけられた。前作『掃除婦のための手引書』の読後感にやられたと伝える。わかります、と頷き、「それならこれも好きだとおもいます」と、トム・ジョーンズやテッド・チャンを勧められた。『すべての月、すべての年』を部屋で手に取るとき、上田の思い出も一緒にやってくる。

 東京に引っ越してから、これからどういうふうに暮らしていこうかしばらく考えていた。だいたいいつも、概念工事からはじめる。大雑把に言って、転職したのは、何かを変えたいとおもったからだった。10月のとある日、通勤の車で黒鳥社の若林恵さんがイーロン・マスクの評伝について話す対談を聞いていた。仕事をするってのがどういうことなのかは、椎野秀聰さんの本を読んだらわかるよと言った。気になって、『僕らが作ったギターの名器』を買った。いま働いている職場での仕事の仕方、ではない仕方を、椎野さんの著書を読んで知る。仕事をするというもの、もっとたくさん知らないといけないと強く思ったのだった。

 『忘れられた日本人をひらく』では、宮本常一の『忘れられた日本人』をもとに、過去の記録を読み返すことによって、現代の問題の解決への新しい見方を発見しようと試みている。「寄合」の章では、いかにしてコンセンサスを導くかが語られている。どのようなプロセスを経たとしても、採決されたあとに生活は続いていく。であればこそ、どのようなプロセスを通ったかが生活には、大事なのだという点に目をつけている。

 『忘れられた日本人をひらく』はこう締めくくられている。「ランダムに会話を続けながら、さながら村の寄合のように、寄り道しながら蛇行していくようなかたちになりました。(中略)でもそれがいかに重要なものであるか、というのは、やはり宮本常一の大事な教えなんだと思います」。合意形成を求めないどうでもいい会話、記録を残す行為、個人的な思い出。そういったもの、なお一層、大事にしたい。